~やなせたかしさんの人生と、朝ドラ『あんぱん』に寄せて~
2025年春にスタートした、やなせたかしさんと奥様・郁子さんの人生をモデルにした「NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』」が大人気!
敗戦後の混乱と苦悩、そして夢をあきらめずに歩んだ愛と勇気の物語。
「お腹をすかせた人に、自分の顔をちぎって食べさせるヒーロー」
そんな、驚くようなことをする正義の味方をご存じですか?
そう、それが子どもたちに大人気のアンパンマンです。
私もかつて、孫たちと一緒にアニメを観たり、「アンパンマンの絵描き歌」を何度も描かされました。アンパンマンは、頭が “あんパン” でできた空飛ぶヒーロー。毎日、パン工場で焼かれたパンを配りながら、困っている人やお腹を空かせた人がいないか町を見守ります。
そして、出会った人が飢えていたり元気をなくしていたりすると、自分の顔をちぎって「どうぞ」と差し出し、勇気と力を与えるのです。

🌸遅咲きの天才、やなせたかしさん

そんなアンパンマンを生み出したのは、やなせたかしさん(1919〜2013年)。
高知県で生まれ、若い頃に漫画家を志して上京しましたが、長い間芽が出ませんでした。編集やグラフィックの仕事をしながら戦争に翻弄され、弟を戦争で亡くし、自らも過酷な日々を経験したそうです。
「人は何のために生きるのか」
「この人生に意味はあるのか」
そんな問いを何度も自分に投げかけながら、それでも「自分もまわりも楽しませたい」と前を向き続けました。
そして、『アンパンマン』が大ヒットしたのは、なんと69歳のとき。
遅咲きではありますが、人生をかけてたどり着いたこの作品には、深くてやさしい哲学が込められています。
🌸アンパンマンの強さとは? 愛と優しさのヒーロー
アンパンマンが持つ力とは、「敵を倒す強さ」ではありません。
やなせさんはこう語っていました。
「正義の力は喧嘩のために使うものではない。困っている人を助けるためにある」
アンパンマンは、顔が濡れたり、ちぎれたりすると力が出せなくなってしまいます。
それでも、自分が弱ってしまうとわかっていても、人を助けずにはいられない。
そんな自己犠牲の姿勢こそが、本当の正義だと、やなせさんは信じていたのです。
🌸「ばいきんまん」との関係に込めたメッセージ
そして忘れてはならないのが、アンパンマンの“宿敵 ”ばいきんまん“。
実はこの存在にも、やなせさんならではの深い視点があります。
ばいきんまんは単なる「悪者」ではなく、「本当は仲良くしたい」という気持ちも持っています。やなせさんは、ばいきんまんにも彼なりの正義があると考えました。
「ばいきんまんにはばいきんまんなりの正義がある」
「正義とは、相手をやっつけることではない」
アンパンマンとばいきんまんの関係は、「共生のメッセージ」なのです。

🌸心に残る『アンパンマンのマーチ』
誰もが一度は聞いたことがある、あのテーマソング。
『アンパンマンのマーチ』(作詞:やなせたかし)
「何のために生まれて、何のために生きるのか?」
「愛と勇気だけが友だちさ」
やなせさんの人生そのものが歌詞に投影されているように思います。
この曲は、2011年の東日本大震災後に復興のテーマソングとしても多くの人を励ましました。
実際、「あの歌に救われた」という声も少なくなかったとか。
🌸最後に──「本当の正義」とは?
アンパンマンは、困っている誰かのために自分を犠牲にします。
でも本当は、誰も犠牲にならず、みんなが幸せになれる道があるのが一番。
それでもやっぱり、アンパンマンの姿が私たちの心を打つのは、
「愛と優しさがあれば、きっと誰かの力になれる」と教えてくれるからだと思います。
強さとは、優しさ。
正義とは、寄り添うこと。
そんなメッセージを、これからも子どもたちに、そして大人たちにも、届けていきたいですね。
