南太平洋に浮かぶ島国ソロモン諸島というと、青い海を想像しますが、豊かな森林が広がる国でもあります。その国には、少し不思議な風習があるそうです。
あまりにも太くて伐(き)れない木があると、原住民たちはその木に怒鳴り声を浴びせるのだそうです。
特別な能力を持つ ”きこり” 達が夜明け前に森に入り、静かに木に近づき、いきなり怒鳴る――。それを30日間毎朝続けると、木は次第に弱り、やがて自然に倒れてしまうそうです。
彼らは言います。「怒鳴り声が、木の命を殺すのだ」「これで倒れない木はない」と。
この話を聞いて、私は桜の木を守り、育て、世話をする“桜守”の人たちのことを思い出しました。
毎日、桜にやさしく声をかけ、愛情のこもった言葉で励まし続けると、桜は翌年も美しく花を咲かせるというのです。
また、花や野菜、果物に音楽を聴かせたり、やさしい声をかけると、すくすくと育ち、家畜に音楽を聴かせると、食欲増進、乳量増加につながるそうです。
命は「ことば」に反応しているのですね。
それは動植物に限ったことではなく、人の命もまったく同じかもしれません。
「ダメな奴」「おまえなんか」――そうした言葉が、どれほど深く人の心を傷つけるかを。
逆に、「ありがとう」「あなたのおかげ」といった、愛情のこもった言葉は、誰かを元気にし、生きる希望と勇気を与えます。
命は、愛されることによって輝き、傷つけられることでしぼんでしまうというのです。
怒鳴る声、差別する言葉、見下すような言葉、否定する言葉。
それらは知らず知らずのうちに、人の「命の灯火」を消してしまいます。
そればかりか――
実は、そのような言葉を発した“自分自身”の心の灯火までも、吹き消しているということを知らなければなりません。人を傷つける言葉は、同時に、自分の命にもダメージを与えるのです。
ことばの暴力は、人の命の光を奪いながら、自らも暗くなっていきます。
先ほどのソロモン諸島の”きこり達”は、自らの命までも損する、まさに命がけの仕事なのですね。

だからこそ、私たちは意識して、ことばを選びたいのですね。
温かい言葉、愛のことば、励ましの言葉、癒しの言葉・・・
どんな言葉も、「相手を大切にしたい」と思う気持ちがあれば、きっと相手に届くはず。
そして、不思議なことに――そのような愛の言葉は相手だけでなく、自分自身の心もまた、温めてくれるでしょう。
あなたの一言が、誰かの命をそっと照らす光となりますように・・・。

