奇妙な体験~ランナーズハイ~

精一杯生きる

マラソンやジョギングを行うと次第に苦しさが増していきますが、

それを我慢し走り続けると、ある時点から逆に快感・恍惚感が生じることがあります。

この状態を「ランナーズハイ」と呼ぶそうです。

 

『エンドルフィンとダイドルフィンのあふれる人生』(7月12日)に記述しておりますが、

ランナーズハイは脳内でモルヒネに似た快感ホルモンであるエンドルフィンが充満することにより、

麻薬のような効果を体にもたらし、発生する現象です。

エンドルフィンの働きは、人間が命を尊重する最後の自己防衛手段であると言われています。

 

私もこの「ランナーズハイ」という不思議な体験をしたことがあります。

それは1977年、長野県佐久市で開催された「佐久市強歩大会」に参加した時のことです。

 

この競技は、山梨県韮崎小学校から午後9時にスタートし、

清里・野辺山の峠を越え、長野県佐久市総合体育館までの78kmを一晩中歩くものです。

毎年4月に開催され、53年以上の歴史があります。

昨年と今年はコロナウイルスの影響で中止されましたが、近年では1000名以上が参加し、

そのうち約70%が完歩しているそうです。

 

この競技は、18時間以内にゴールを目指す、自らの精神と体力の限界に挑む競技会です。

ところで、最速の驚くべき記録は7時間で達成されたそうです。

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私は強歩の知識や装備など無知な状態で、職場の仲間と一緒に参加しました。

スタート時は仲間と共にいたのですが、清里へ向かう途中で彼らとはぐれてしまいました。

一人で歩いていると、懐中電灯を持った親切な方が現れ、一緒に歩いてくれました。

 

しかし、しばらく歩いていると、懐中電灯のゆらぎによって気分が悪くなりました。

その後は一人で真っ暗で肌寒い夜道を歩くことになりました。

本来であれば癒されるはずの美しい清里・野辺山高原も、

星の光一つない暗黒の世界と化していました。

 

野辺山を越えると、

「ここからは下りだから、なんとかなるさ! もう心配ない!」

と思ったのが間違いでした。

その後が想像もしていなかった地獄となったのです!

 

靴擦れと筋肉痛に苦しみながら、道路の段差に注意を払いつつ、ゆっくりと歩きました。

気温の低下もあってか、体力が消耗し、動くのが困難です。

座り込むと立ち上がれなくなるかもしれないという恐怖と戦い、

靴を脱いで素足で歩こうかと思いました。

 

無知というものは恐ろしいもので、

当時の私の服装は短いズボンで脛から下が丸出しでした。

靴はバスケットシューズのような靴底が分厚いかなり重い靴だった記憶があります。

 

途中で、何度も救護車に乗る人たちを見ながら、

自分がその車に乗る幻覚を何度も体験しました。

しかし、これは人生をかけた自分自身との戦いだと感じました。

「絶対に諦めてはいけない!」

足を引きずりながら、ようやく長い峠の坂を下りきりました。

周囲には誰もおらず、孤独感が漂います。

どこで夜が明けたのか、思い出そうとしても記憶がありません。

 

徐々に坂が緩くなると、不思議と体が軽くなり、活力が湧いてきました。

靴擦れでの出血や痛みも、忘れていました。

「ゴールまで行ける!」と確信しました。

 

残り20キロメートルは緩やかな下り坂が続きます。

住宅や商店街が多く、車の通行も増え、気温も上がります。

楽に思えますが、最後の難所となると聞いていました。

 

最後の10キロ地点で、私が到着するのを心配した仲間のIさんが戻って来て、私に合流しました。

 

スタートから14時間半経過し、

何とか自力で頑張り、私はIさんと共にゴールに到達することができました。

賞があるとは知らなかったので、予期せぬ「踏破賞」を受賞して驚きました。

 

振り返れば、エンドルフィンの影響もあったかもしれませんが、

仲間の励ましと思いやりがあったからこそです。

また、大会の各所で温かい飲み物や食べ物を提供してくださった

たくさんのスタッフの皆様の支えも大きかったです。

大会の後、私の両足の膝から下に内出血が起こり、足が真っ黒になりました。

階段を上り下りすることができない後遺症に、しばらく苦しめられました。

 

一人で歩くのではなく、誰かと共に歩み、励まし合い、支え合う。

山も谷もある、まさに人生はこれと同じですね。

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