人生には、思い通りにならないことがたくさんあります。
雨の日もあれば、嵐の日もある。
できることなら、困難は避けて通りたいものです。
ところが不思議なことに、後になって振り返ると、何も起こらなかった一日よりも、
大変だった日のほうが鮮明に心に残っていることがあります。
私にも、そんな忘れられない「ずぶ濡れの思い出」が二つあります。
台風一過の皇居をウオーキング
2019年10月、台風19号が東京都心を襲った翌朝の出来事です。
皇居一周をランニングする「皇居ラン」は有名です。
しかし私は、「皇居の外周を3周歩く。それを4日間続ける」
という約束を仲間8人でしていました。
皇居一周は約5キロ、徒歩で1時間。3周すれば15キロの3時間です。

ところが、その前夜、猛烈な台風19号が東京都心を通過しました。
台風が過ぎ去った翌日の早朝は、ときおり日が差して生暖かい風が吹き。
雨雲が忙しく移動し、小粒の雨を運んでいました。
集合時間に皇居前広場へ行ってみましたが誰もいません。
しばらくして一人の婦人がやって来ました。
「皆さん来ないですね~」
「二人で先に始めましょう!」
歩き始めると、後ろから傘を差した仲間の男性が追いついてきました。
「台風だから、中止になったそうですよ」
彼はここに来る電車の中で中止を知ったそうです。
「え~~!何があってもやる約束だったのに……」
とはいえ、台風は想定外でした。
それでも、すでに来てしまった3人。
「せっかくだから歩こう! 台風なんかに負けない!」
そう決めた途端、まるで雨の中に飛び出して行く子供のようにテンションが上がりました。
大木が教えてくれた「本当の強さ」
皇居周辺は、猛烈台風が過ぎ去った後の爪痕。
落ち葉や枝が散乱し、大きな水たまりがあちこちにできています。
回り道したり、飛び越えたりしながら進んでいると、突然、目の前に大木が倒れていました。
根元からごっそり抜けて、道をふさいでいたのです。
しかも、一本だけではありません。
一周する間に、立派な太い木が3、4本、根元から倒れていました。
「こんなに太くて立派な木が、どうして……」

ところが2周目、作業員の方々がチェーンソーで倒木を切断している所を通りかかったとき、
その理由がわかりました。
切り株の中心が黒く、なんと空洞になっていたのです。
それを見た仲間の男性が突然こんなことを言いました。
「人間もこれと同じですね。外見が立派でも、中身が肝心なんです」
外からは立派な大木に見えても、芯や根っこが弱ければ、強い風が吹いたときに倒れてしまう。
皇居の周りの細い木々は、しっかり根を張って、しなやかに耐えていたのでしょう。
確かに、人間も同じなのかもしれません。
人生の嵐に遭遇したとき、その人を支えるのは、
肩書きや外見ではなく、心の中にどれだけ強い「根」を張っているかなのだと思いました。
3周を終える頃には、青空が見え始めました。
私はレインコートを着ていたはずなのに、中はぐっしょり濡れていました。
ところが、差していた傘が壊れてしまった男性のほうは、なぜかほとんど濡れていません。
「用意周到が、かえってアダになることもあるんですね。」
それがまたおかしくて、みんなで大笑い。
孫と一緒にずぶ濡れ体験
そして今年の夏休み、孫と訪れた「仙台うみの杜水族館」でも、
私はまたまた”ずぶ濡れ”になりました。
今度の相手は台風ではありません。
イルカです!
イルカショーの開始前、スタッフの方が、
「ずぶ濡れ注意」のパネルを持って注意を呼び掛けていました。
ですから最前列から3列目は空席でした。
私は孫の手を引いて水しぶきが飛んでくるという前列の空席へ移動。
イルカが勢いよくジャンプを繰り返すたび、大量の水が「ザバーン!」
みなさん大歓声。孫も大喜びです。

いい年をした大人たちも、子供と一緒になって水をかぶって喜んでいる。
濡れれば濡れるほど、”水も滴るいい○”です。
なかなかできない楽しい体験なりました。
考えてみれば、台風の余波の中で、皇居を歩いたときも同じでした。
雨や風、水たまりさえも、嫌だと思えば「最悪の環境」です。
ところが、そのままを受け入れ、「楽しい!」と心を切り替えた瞬間、
同じ状況がちょっとした冒険に変わるのです。

人生の雨も、楽しんで歩いてみよう
もちろん、人生には笑って済ませることのできない苦しみもあります。
悲しいときに無理に笑う必要はありません。
辛いことまで「楽しい」と思い込む必要もないでしょう。
それでも、避けることのできない困難に出会ったとき、
「どうしてこんな目に遭うの?」と嘆くだけではなく、
「さて、この中で私は何を見つけられるだろう」と考えてみる。
すると、心の景色が少し変わることがあります。
台風の余波だったからこそ、私は台風の爪痕を見ることができ、
人生の大事な教訓もいただくことができました。
ずぶ濡れになったからこそ、仲間と喜び合える達成感を得ました。
イルカに思いきり水をかけられたからこそ、孫と共通の楽しい思い出ができました。
晴れの日だけが、良い日なのではありません。
雨の日には雨の日にしか見えない景色があり、
嵐の中だからこそ気づくこともあります。
困難を恐れて回避するのではなく、それを甘受し、そこから何かを見つける。
「大変だ」と思ったときほど、それをそのままに受け入れてみる。
そして、今ここにあるものをありのままに受け入れ、感謝して一歩ずつ歩いていく。
人生という長い道のりにも、雨が降り、強い風が吹くでしょう。
雨が降ったら、雨の中を歩けばいい。
水をかぶったら、思いきり笑っちゃえばいい。
困難さえもいつか、
「あの時は大変だったけれど、楽しかったね」
と笑える思い出に変わるかもしれません。
人生の嵐さえ、感謝とワクワクする心で乗り越えていきたいものです。



