『わらしべ長者』という「日本昔話」をごぞんじですか?
一本のわらを掴んだ貧しい男が、物々交換を経て大富豪になったというのお話です。
元となる話は『宇治拾遺物語』『今昔物語』にあり、内容は少しずつ変わっています。
この物語の教訓とは何なのでしょうか。
あらすじを紹介しながら考察してみましょう。
物語のあらすじ
昔々、財産もなく貧しい男がいました。
彼の心は純真で前向きでした。
ある日、彼は観音様に参り、「どうか私にも幸運を授けてください」とお願いしました。
すると、「最初に掴んだものを離さないようにしなさい」とのお告げ。
お寺を出て転んだ拍子に一本のわらしべ(わらの芯)を彼は掴みました。
男は、観音様の言葉を思い出し、わらしべを大事に握りしめて村を歩いていました。
しばらくすると、わらしべにアブが止まり、男はそのアブをおもちゃにしてさらに進みます。
すると、泣いている子供を連れた母親に出会いました。
男はアブのおもちゃを泣いている子供に渡し、お礼に母親からみかんをもらいました。
男はそのみかんを持って再び歩き出すと、道端で倒れている商人に出会います。
商人は喉が渇いており、男がみかんを渡すと商人は代わりに立派な反物をくれました。
男はその反物を持ち、さらに旅を続けていました。
しばらくすると、こんどは道端で死にそうで可哀そうな馬を見つけます。
男は、飼い主に反物を渡して馬と交換します。
引き取った馬は水を飲ませるとたちまち元気になりました。
馬を引いて歩いていると、旅に出ようとする人が「急いでいるのでその馬を譲って欲しい。代わりに屋敷と田んぼを貸しましょう。しかし、もし3年経っても私が戻らなかったら、屋敷と田んぼを、あなたにあげましょう」と言いました。
男は馬を渡し、その屋敷で暮らすことになりました。
こうして、男はその屋敷でずっと暮らすことになり、
一本のわらから最終的には立派な財産と名誉を手に入れることになったのです。
『わらしべ長者』から得られる教訓~その1~
この物語は、天がくれる機会を迷うことなく受け入れ、
それを大切にすることの重要性を教えてくれます。
最初に与えられたのは、たった一本のわらにすぎませんでしたが、
男はその小さな機会を無駄にせず、誠実さと努力で次々とチャンスをつかんでいきました。
この教訓は、現代に生きる私たちにも通じるものがあります。
私たちが日常で直面するチャンスは、小さく見えるかもしれません。
しかし、与えられたチャンスを軽んじることなく、それを感謝して受け入れ大切にしていくことで、驚くべき結果を得ることができ、自分の人生をより豊かで意味のあるものにすることができるということです。
『わらしべ長者』が伝える教訓~その2~
「わらしべ長者」は、一般的に「信仰心」の大切さを説く物語とされています。
しかし、この物語には、もう一つの重要な教訓が隠されています。
それは、「見返りを求めない親切心」の大切さです。
主人公は、観音様のお告げを守るなら、わらしべを大切にすべきはずでした。
しかし、彼は、困っている人々を積極的に助けるという、自分の利益よりも、他人の幸せを優先したのです。
結果的に、彼の親切な行動は、大きな幸運へとつながりました。
この物語は、信仰心も大切ですが、それと同じくらい、困っている人を助けたり、
誰かのために何かをするという、見返りを期待せずに与えること、
それが本当の幸せにつながると、教えています。
つまり、信仰心と共に、「与えることの喜び」や「人のために生きる」ことの大切さを教えてくれる、奥深い物語です。
「わらしべ長者」ゆかりの地:奈良県の長谷寺
奈良県桜井市初瀬(はせ)にある長谷寺のご本尊の十一面観世音菩薩像は、
わらしべ長者がお祈りした観音様と言われています。
長谷寺は山に囲まれた静かな場所で、日本最古の詩集である『万葉集』にも多く詠まれ、文人も多くこの地を訪れました。