92歳の母が入所中の介護施設から電話がありました。
母に何かあった・・・
瞬間に感じるのです。
「もしもし・・・」
私の声のトーンが低くなります。
施設のスタッフさんの電話では・・・
母が昨日の夕食に、魚の骨を喉に詰まらせ、
吐いて苦しがり、スタッフさん二人が対処してくださったとのこと。
夜中も、何度も粘液を吐いたため、
誤嚥性肺炎にならないよう、
医者に診てもらうとにしたとのことでした。
お正月の季節は、お餅を喉に詰まらせる事故が多発します。
母はお餅ではなくお魚。
その日の夕方、再び施設から電話。
診察の結果、熱もなく誤嚥性肺炎ではなさそう。
食事を食べるように様子を見るとのことでした。
次の日のTELでは・・・
食事を全くしない、流動食や水も受け付けない、
口に入れても出してしまう。
でも、元気でおしゃべりもしている。
主治医からも電話がありました。
私は、医師に母の面会をお願いしました。
施設ではコロナのため面会禁止になっていましたが、
とにかく、母がどのような様子なのか知りたかったのです。
何日も食事を全くしない・・・
飲み物も口に含んでも出してしまう・・・
それなのに元気・・・
私は、あることを疑いました・・・
精神的なものなのか・・・
飲み込むことが恐怖か・・・
喉が過敏に過剰に反応してしまうのか・・・
************
昔、主人が会社で倒れて数日後から、
まったく水も飲めなくなるという経験をしました。
脳外科や耳鼻咽喉科などで受診し検査ても、
脳にも口頭にも気管にも問題はなく、
「大きな病気の疑いもありません」と言われました。
なのに・・・
食事も薬も飲めない、
口に含んだ水さえも出してしまう。
とにかく飲み込めない。
このままでは脱水症状になってしまう。
困り果てて、耳鼻咽喉科を再診しました。
その時、医師が言ったその一言で、
主人は飲めるようになり、
食べられるようになったのです。
「人間は、常に口の中で唾液が出ています。
でも唾液で口の中がいっぱいになり、
こぼれたりしないでしょう?
意識なしに飲み込んでいるからですよ。
だから大丈夫。少しづつ飲みましょう」
************
介護施設の面会許可が出たので、
心配していた妹と一緒に母の面会に行きました。
車いすに乗った母がスタッフさんと現れました。
私たちを見て母は嬉しそうに手を振りました。
「名前は何だったかな・・・私の娘でしょう?」と母は言いましたが
しだいに記憶が戻って、名前も思い出しました。
「きょうはね。お母さんと一緒におやつを食べようと思って・・・」
市販のフルーツゼリーとヨーグルトとバナナを、
母の目の前のテーブルに並べて・・・
「ほ~ら! 長野で採れたリンゴのゼリーと、
お母さんの好きなバニラヨーグルトですよ」
(母は出身が長野県、20年前に東京へ)
「美味しいですよ~~どれから食べる?」と聞くと・・・
「リンゴにしようかな・・・」と・・・
ゼリーのカップの蓋を開けて、母の手に渡すと、
小さなスプーンで1口、2口と
自分で上手に口に運んで食べたのです。
結局、ゼリーは全部食べ、
バニラヨーグルトも残さず食べました。
「美味しいわ~」と何度も言いました。
このとき、母の状況を私たちに見せたくて
スタッフさんが準備してくださったものは・・・
お盆に乗せたプラスチックのカラーコップが二つ。
少量の水の中に入った、口腔ケアスポンジ。
もう一つのカップには、少量のポカリスエットでした。
<口腔ケアスポンジ>
スポンジで口を湿らせてから、
ポカリスエットを飲んでもらうつもりだったようです。
面会のその後・・・
母は、面会したその日の夕食から、
食事を食べ始めたそうです。
スタッフの皆様、ご心配をお掛けしました。
ありがとうございます。
人は食事を口だけで食べるのではなく
耳で食べ、目で食べ、愛を食べるのですね。