「どうしてウサギはカメに負けたと思う?」
ある日、おとぎ話の『うさぎとカメ』の話から、
小学生の孫にそう尋ねてみたことがありました。
「だって、ウサギはお昼寝してさぼったからだよ」
無邪気にも得意げな表情で答える孫に、私もうなずきました。
ずっと、私もそう思っていたからです。
けれどあるとき、私はこの話の別の解釈に出会い、目から鱗が落ちるような思いをしました。
──ウサギは、カメと自分を比べて、自信過剰になっていた。
一方カメは、誰とも比べることなく、ただ目の前のゴールの旗だけを見つめ、休まず黙々と歩み続けた──。
この話は、「人と比べずに、目標に向かって自分のペースで淡々と歩む」ことの大切さを教えてくれました。
社会に出れば、勉強でも仕事でも、競争が当たり前のように求められます。
「一番になること」に価値があり、時には人を蹴落としてでも勝つことが美徳とされることさえあります。
でも、それは本当の喜びや幸せにつながるのでしょうか?
作家・小林正観さんは、『うさぎとカメ』のその後の物語を、温かなまなざしで描いています。
そのお話が、とても素敵なので、要約し再構成して皆さんにご紹介したいと思います。

カメとの競争に負けたウサギは悔しくて、「もう一度競争しよう!」と提案します。
ウサギは今度は寝ることなく一生懸命走り、カメを圧倒します。
けれど、カメは負けたにもかかわらずニコニコしながら言うのです。
「うさぎさんにはかなわないよ。でも、僕は昨日よりも早く走れたんだ」
それを聞いたウサギは、「よし、もう一度!」と張り切ります。
そして、ウサギはまた勝ちます。ウサギも「自己ベストを更新したよ!」と満足げです。
すると、今度はカメが「もう一度やろう!」と提案しました。
翌日、亀は仲間をたくさん連れて挑戦しました。
結果はもちろん、ウサギが一番。仲間たちと笑顔でゴールしたカメたちは、とても楽しそうで幸せそうです。
それを見たウサギも次の日、仲間をたくさん連れてみんなで走ります。
これがウサギとカメの最後の競争になり、それからは、ウサギもカメも競争せずに一緒に楽しい時間を過ごしました。
──そうして、ウサギもカメも気づいたのです。
競争して勝っても、心が満たされないことがある。
でも、仲間と一緒に、助け合いながら歩むことには、かけがえのない喜びと幸せがあるのだと。
禅語に「把手共行(はしゅきょうこう)」という言葉があります。
「手を取り合って、共に歩む」という意味ですが、「同じ志を持って同じ思いを抱いて歩む」という深い意味を持っています。

『手を取り合って共に行こう』と言ってくれる、パートナー、友達や仲間、誰かがいてくれることはとても幸せな事です。
私は「友達」より、「仲間」という言葉の響きに温かみを感じます。
「仲間」とは、心と心が通じ合い、同じ志で共に同じ方向に向かって歩む存在です。
私にとって「仲間」は人生の尊い宝物です。
そんな仲間となら、どんなに険しい道も支え合って助け合えば、越えていけます。
自分ひとりでは挫けてしまうことも、仲間がいれば立ち上がれます。
人生は、誰かと比べて勝ったり負けたりする旅ではなく、それぞれが自分の歩幅で、同じ目的に向かって支え合って歩く方が、楽しくて幸せです。
だからこそ、焦らなくていい。比べなくていい。競わなくていい。
大切なのは、仲間と共に、同じ方向に一歩ずつ楽しく進むこと。
ゴールの旗を目指して、今日も、あなたは誰と一緒に歩みますか?
※「うさぎとカメ」の後日談は、小林正観さんの著書に基づき再構成しています。
読んで心が温かくなった方は、ぜひ大切な人にこのお話を伝えてみてくださいね。
