ある夜、師の寝室に強盗が押し入り
「金を出せ!早く出さぬと殺すぞ!」と。
「金は床の間の文庫の中にある」
静かに師が答えると
強盗は文庫を抱えて急いで立ち去ろうとしました。
「待ちなさい・・・」
「何か用か?」
にらみつける強盗に師はおだやかに言いました。
「実はその金はのう、仏様からのお預かりもの
本堂に行って、一言お礼を言ってから帰りなされや」
すると泥棒は素直に本堂に行き
頭を下げて帰って行ったそうです。
やがて、師に警察から呼び出しがあり
あの犯人が捕らえられたのです。
「金品を取られたならすぐに届けてくださらないと困ります」
「いや、盗られた覚えはありませんが…」
「そう言われても犯人がはっきりと白状しています」
「それは何かの間違いでしょう。
確かにある晩、金が欲しいと言ってやってきた者はいた。
だが、その人には仏様にお礼を言って帰りなさいと
与えはしたが盗られたのではない」
やがて、刑を終えて出所した泥棒さんを師は
「因縁のある男だ、私の寺の会計係にちょうど良い働いてもらおう」と
身を引き取ったのです。
感激した彼は立派に更生し
生涯一度のミスも犯さなかったそうです。