大会10日目の8月1日、陸上の男子走り高跳びで、
思わぬ形で2人の金メダリストが誕生した。
男子走り高跳び決勝で、
カタールのムタズエサ・バルシム(30歳)と
イタリアのジャンマルコ・タンベリ(29歳)は
2メートル37まで、ともにノーミスで1回で成功。
ところが両選手とも2メートル39は、3回とも失敗した。
当然、決着するまで跳躍する優勝決定戦(ジャンプオフ)かと思いきや、
「ジャンプオフをやりますか?」という審判員の問いかけに、
バーシム選手が「金メダルは2つもらえるの?」と尋ねました。
「可能です」という審判員の答えを受けて2人はうなずき合い、
決着より「共有」を選んだ2人は金メダルを分かち合うことに決定。
その瞬間、バーシム選手が「友よ、歴史だ。オリンピックチャンピオンだ」と語りかけ、
タンベリ選手は叫び声を上げてバーシム選手に抱きつき、
跳びはねたり転げ回ったりして喜びを爆発させた。
ルールでは
「競技者がこれ以上跳躍しないと決めた場合を含み、
ジャンプオフが実施されない場合、
同成績の複数の選手が第1位に並ぶ」と定められている。
<試合後、ジャンプオフを行わなかった理由について>
「それは歴史だ!」
「これがスポーツマンシップであり、私たちが若い世代に届けるメッセージだ」
とバルシムは語った。
「バルシムでなかったら、金メダルを共有することはなかっただろう」
とタンベリは言った。
ここ数年、2人はけがで苦しい時期を過ごした。
それでも懸命に調整して東京五輪に体調を合わせてきた。
国際大会でしのぎを削り、
同じような苦境を味わった「友達」だったからこそ
誕生した2人の金メダリストだった。
2日夜に行われた表彰式では、
表彰台の上で仲良く並びお互いに金メダルを掛け合った。
国歌はカタール、イタリアの順に流れた。
<けがを乗り越えた金メダル>
バルシムとタンベリはそれぞれ、
けがによる厳しい時期を乗り越えなければならなかった。
しかし、バルシムはそうした犠牲には価値があったとしている。
「素晴らしい瞬間だ。この夢から目覚めたくない」
「いろいろなことがあったので。
けがをしたり、たくさんの挫折を味わったりしながら
待ち続けた5年間だった。
でも、私たちは今日この場にいて、
この瞬間とあらゆる犠牲を分かち合っている。
この瞬間、本当に価値ある犠牲だったと思える」
タンベリは2016年リオデジャネイロ五輪の直前、
足首のけがを負い、同大会を欠場。
もう競技に復帰できないかもしれないと告げられていた。
そのとき着けたギプスに「ROAD TO TOKYO(=東京への道)」と
書き込んで東京大会を目指してきた。
回復に時間を要した。
「ここにくるまで長い道のりだった」
「けがをした後はただ復帰したいと思っていたが、
今この金メダルを手にして信じられない気持ちだ。
何度も夢見てきたことなので」
一方、バーシム選手も左足首の故障に苦しんでいた時期があり、
12年のロンドン大会は銅メダル、
16年リオデジャネイロ大会は銀メダルだった。
悲願の金メダル獲得にはならず涙した。
互いに高め合ってきた2人は競技を離れると結婚式に出席したり、
家族旅行をしたりするほどの仲だといい、親しい友人だった。
バーシム選手は試合後のインタビューで
「勝ったほうが相手に食事をおごる予定だったけれど、
どうやら割り勘だね」
と笑いながら答えていた。
参考:
・毎日新聞
・BBC NEWS JAPAN
・NHKニュース