沈黙する国家に投げかけられた衝撃的なノンフィクション
2025年11月に発売された福田ますみ著ノンフィクション『国家の生贄(いけにえ)』(飛鳥新社)。
刊行直後から大きな反響を呼び、すぐに増刷が決まったといいます。
多くの読者が衝撃を受けたのは、本書が正面から扱っているテーマにありました。
世の中では、「反社会的な宗教団体だから解散は当然だ」と受け止められてきた旧統一教会問題。
しかし本書は、その常識に疑問を投げかけました。
取材を重ねる中で浮かび上がるのは、「旧統一教会問題は冤罪」という衝撃的な真実でした。
本書は、足を使って1200日に及ぶ取材を通して書かれました。
旧統一教会問題を「国家ぐるみのでっちあげ」とされる事件です。
政府・官僚・司法・オールドメディアが一体となって関与したとする疑惑の構図に迫ります。
一般に流布してきたメディア報道とは180度異なる視点が提示されていました。
「この日本は本当に法治国家なのか」という根源的な問いが、鋭く突きつけられます。

メディアが触れなかった“もう一つの現実”
著者の福田ますみさんが取材を始めたきっかけは、
一方向に傾いた報道への違和感だったといいます。
元安倍晋三総理の暗殺事件以降、世論が一斉に同じ方向へ流れ、
異論を唱える者がほとんど現れない。
その異常さに疑問を抱いた著者は、孤独な取材の道を選んだのです。
取材を重ねるうちに、メディアがほとんど触れなかった事件や証言が、
しだいに明らかになりました。
根底から揺さぶられる意外な事実も何度も現れました。
本書は、そうした“知らされてこなかった事実”を丹念に掘り起こしています。
「戦後最悪」とされる謀略事件
『国家の生贄』の第一章で強く打ち出されるのが、「戦後最悪の人権侵害」というテーマです。
拉致監禁、強制的な改宗、長期にわたる自由の剥奪。
それらが個別の問題としてではなく、放置され黙認されてきた実態が描かれています。
さらに著者は、こうした問題に対して、問い続けました。
本来ブレーキ役であるはずの司法や行政と監視役であるはずのメディア。
それらがなぜ機能しなかったのか。
批判や訴訟を恐れ、誰も声を上げない状況そのものが、すでに異常なのだと。
全国弁連の正体――人権擁護を名乗る政治運動体の実像
本書では、「全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)」についても詳しく検証しています。
一般には被害者救済のための弁護士団体と認識されてきましたが、
著者は取材を通じて、その活動が特定宗教の排除を目的とした政治的・思想的運動へと傾斜していった経緯を描き出しています。
メディアとの強固な連携、記者会見による世論形成、反論の封殺――
そうした構図の中で、当事者の人権や事実の検証がなされていなかったと、
本書は鋭く問題提起しています。
解散命令に至った疑惑――法解釈の転換と行政判断の危うさ
とりわけ焦点となるのが、岸田政権下で行われた宗教法人法の「法解釈の変更」でありました。
本書によれば、これまで解散命令の要件とされてきたのは、
刑事事件における明確な違法性の立証でした。
しかし、政府はこの解釈を転換し、
民事上の不法行為の積み重ねでも解散命令が可能であるとしました。
著者は、この変更が国会で十分な議論を経ないまま行われた点に、
法治国家としての危うさを指摘しています。
さらに、裁判所に文部科学省が提出した資料や主張についても、本書は厳しく検証しています。
すでに解決済みの民事事例や、個別性の高い案件が、再構成(捏造)されていたといいます。
「組織的問題」として強調された過程に、不自然さがあると指摘する声を紹介しています。
反対意見や慎重論が十分に扱われなかったことも、判断の公正さに影を落としているといいます。
「洗脳された」という中傷の中で
取材を続ける福田さん自身も、激しい誹謗中傷に晒されました。
「福田は洗脳された」というレッテル貼りは、その象徴でした。
しかし本書は、その言説がいかに根拠のないものであるかを
事実の積み重ねによって静かに反証していきました。
520ページに及ぶ本書。
著者が見聞きした証言、資料、関係者の言葉が詳細に記録されています。
感情的な断罪ではなく、事実を提示する姿勢が貫かれています。
<著者の福田ますみさん>

法治国家への根源的な問い
『国家の生贄』は、読者に問いかけます。
「この国は本当に法の下で統治されているのか」
「テロリストの願望が叶う国なのか」と。
スパイ防止法をめぐる政治的攻防、テロリストの思惑。
そして、宗教問題と人権問題が複雑に絡み合う構図は、他人事ではありません。
「拉致監禁史」や「生還者の肉声」が、特別収録として掲載されています。
抽象論ではなく、現実に生きた人間の悲しみや痛みとして、問題を胸に突きつけてきます。
沈黙を破る一冊として
福田ますみさんは、冤罪や国家権力の闇を描いてきたノンフィクション作家です。
その著作は国内外で高く評価されました。
『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』で、新潮ドキュメント賞を受賞しました。
2024年には宗教報道における功績として米国ウィルバー賞も受賞しています。
ところで『国家の生贄』は、特定の立場を擁護したり批判したりするための本ではありません。
むしろ、「私たちは何を見せられ、何を見てこなかったのか」を問われます。
メディアの報道だけでは決して触れられなかった真実が、ここにはありました。
沈黙が支配する時代に、あえて異議を唱えたこの本は、読む者に重い問いを残すでしょう。
今、私たち一人ひとりが試される一冊です。



