お天気も温かく、外は気持がよい。
塀に囲まれた猫の額ほどの狭い我が家の庭でも 、
彼には興味深い場所であるらしい 。
蟻やダンゴムシ、ミミズを簡単に捕まえられる、
ときどき蝶々や昆虫なども舞い降りる、
木々の間から差し込む光や風が心地よい
ここは彼の楽園なのだ。
遊びに夢中で、なかなか家の中に戻ろうとしない。
仕方なく気の済むまで遊ばせてやろうと、
私と娘は彼を残して昼食の準備のために家の中に戻った 。
しばらくして娘が叫んだ !
「お母さん! コンちゃんがいない!!」
言われてみれば、外で遊ぶ孫の声がなく、いつの間にか静かになっていた 。
よほど興味深い物でも見つけて夢中になっているのかと思っていた 。
庭には愛犬も放し飼いにしているため 、
犬が塀の隙間から外に出ないようにバリケードをしていた 。
見るとそのバリケードが外れている 。
二歳で何ができる?
バリケードを外して外に出て行くだろうか?
いや、そこまではしないだろう ・・・。
たぶん、私や娘が気付かない間に家の中に戻ったにちがいない。
家の中に戻って、探したがいなかった 。
塀の外にも、どこにも彼の姿はない 。
消えてしまった・・・ いったいどこに・・・
こういう時は慌ててはならない 、
もう一度、庭に戻ってみた。
すると、庭にいる愛犬が不思議な仕草をしていた。
首をのばして顔を横に傾け、
自分のハウスである犬小屋の方向をじっと見て固まっていた 。
もしかしてハウスの中?
急いでハウスの中をのぞいて見た 。
いたっ! ハウスの中だ!
なんと、彼は犬の毛布にくるまって眠っていた。
心臓が躍るほど心配した私達の気持をよそに 、
それは本当に微笑ましい光景ではあった。
思わず娘と笑った。
孫をそっと抱きあげると、
愛犬が「連れて行かないで」と
駆け寄って、
孫の臭いを嗅ぎながら、家に戻ろうとする私の後ろについて来た。
愛犬の仕草は、ハウスを乗っ取られて困ったというより、
大騒ぎしている私たちに孫の所在を知らせたかったのだろう。
事の一部始終を見ながら一番心配していた
80歳の私の母(曾祖母)が急に大笑いをした 。
昼食を共にしながら大笑いしたその理由を母に尋ねてみた。
母の話では、私が子供のころ、まったく同じような経験をしたと言う。
犬小屋ではなく山羊の小屋だった。
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もう50年も昔の話である。
私は信州の田舎で生まれ育った。
その当時は、どこの家でも山羊や鶏を自宅で飼い、
山羊の乳や鶏の卵は大事な食材だった。
山羊の子供が産まれると、
私は2畳ほどの狭い山羊の巣に入り込んで山羊と遊んだ。
子供を出産したばかりの母山羊は警戒もせず、
私を嘗め回して、子山羊扱いをしていた 。
そんなある日、私は巣の中で眠ってしまったのだ。
昔々の出来事ではあるが、いつの時代も変わらない。
この時の母も、気が狂うほど消えた私を探したそうだ。
犬小屋で眠ってしまった2歳の孫も、2021年今年は中学2年生になった。