人生時計、あなたは今何時?――人生には、その時にしか見えない景色がある

すべてに感謝して

人生は二周する時計のようなものです。
それぞれの年代に、その時にしか見えない景色があります。

以前、「人生は時計の針のようなものだ」というお話を聞いたことがあります。

時計の針は12から始まり、1、2、3……そして6までは下へ向かって進みます。
ところが6を過ぎると、7、8、9……と、今度は12に向かって上っていきます。

もし人生を120年と考えるなら、私たちは時計の文字盤を二周することになります。

0歳から30歳――若さに押されて進む下り坂

最初の12時を誕生とすれば、6時にあたる30歳までは、いわば「下り坂」です。

子どもから青年へと成長し、学び、社会へ出ていく時期。
若さというエネルギーがありますから、多少無理をしても前へ進むことができます。

転んでも立ち上がる力があり、失敗しても「もう一度やってみよう」と挑戦できる。

若いということ自体が、生命力にあふれ人生を前へ押してくれる、
夢や可能性に満ちた、まぶしく輝く時期なのかもしれません。

30歳から60歳――大変だったけれど、一番輝いていた時

30歳を過ぎると、時計の針は6から12へ向かって上り始めます。

仕事、結婚、子育て、親のこと、人間関係――。

自分のことだけを考えていればよかった若い頃とは違い、
守るべきものや責任が増え、人生の中でも最も忙しく努力が必要な時期を迎えます。

仕事に追われ、子どものことで悩み、家族を支え、
時には思い通りにならない現実に立ち止まることもあるでしょう。

その真っただ中にいる時は、毎日を乗り越えるだけで精いっぱいです。

けれど、年齢を重ねて振り返ってみると、不思議なことに、あれほど大変だった時代が、
人生で最も輝いていた時期だったように思えることがあります。

苦労がなかったから輝いていたのではありません。

苦労しながらも誰かのために一生懸命生き、悩みながらも前へ進み、
泣いたり笑ったりしながら、自分自身も成長していた。

だからこそ、あの忙しく大変だった日々が、
後になってかけがえのない時間だったことに気づくのでしょう。

一歩一歩踏ん張って上るからこそ、人として豊かに、成熟していく時期なのかもしれません。

60歳から90歳――感謝しながら、次の世代へ

そして60歳、還暦。
時計の針は再び12へ戻り、人生の二周目が始まります。

60歳から90歳までは、再び下り坂です。

若い頃のように自分が先頭に立って頑張るのではなく、
少し肩の力を抜き、これまで歩んできた人生を振り返りながら、
感謝の心で歩いていく時期なのかもしれません。

そして、自分が握ってきたバトンを、少しずつ子どもや孫たちへ渡していく。

昔から「老いては子に従え」といいますが、それは単に子どもに従うというより、
次の世代を信じ、任せ、成長を見守る知恵とも言えるでしょう。

自分が主役となって走る人生から、子や孫の成長を喜び、応援する人生へ。

これまで出会った人、支えてくれた家族、乗り越えてきた出来事にも「ありがとう」と感謝しながら、いただいた愛や知恵を次の世代へ手渡していく。

それが、人生の二周目に与えられた豊かな歩き方なのかもしれません。

90歳からの上り坂――「感謝」と「天に委ねる心」で

では、90歳から120歳までの最後の上り坂は、何を力にして上っていくのでしょう。

若い頃のような体力でもない。
仕事や子育てに追われていた頃の「頑張る力」でもない。

私はふと、「感謝の心」なのではないかと思いました。

105歳で天寿を全うした友人がいました。
その方に長寿の秘訣を尋ねたことがあります。
返ってきた答えは、とてもシンプルでした。

「どんなことにも感謝することです」

長い人生には、嬉しいことばかりではなく、苦しいことや悲しいこともたくさんあったはずです。
それでも最後にたどり着いた言葉が「感謝」だったことが、今も心に残っています。

そしてもう一つは、「天に委ねる心」なのかもしれません。

96歳になる私の母は、今、介護施設で暮らしています。
車いすで過ごすことが多く、窓から見える空や流れる雲を、静かに眺めています。

そして一日の多くの時間、昔懐かしい歌を口ずさんでいます。
母の心の中には、私には見えない懐かしい景色が、今も広がっているのかもしれません。

その姿を見ていると、「こうしたい」「こうでなければ」という自分へのこだわりが薄れ、
すべてを天に委ねて、ただ今という時間を生きているように見えることがあります。

人生の最後には、たくさん持つことよりも、
一つずつ手放していくことが大切なのかもしれません。

自分の力で何とかしようとする人生から、
「今日も生かしていただき、ありがとうございます」と、一日一日を受け取っていく人生へ。

そう考えるなら、人生最後の上り坂は、決して苦しい坂ではありません。

一歩進むたびに感謝が深まり、一つ手放すたびに心が軽くなっていく上り坂。

そして最後は、「ありがとうございます。あとはお任せします」と天に委ねていく――。

そんな人生の歩き方もあるのかもしれません。

年齢を重ねなければ見えない景色がある

振り返れば、人生には楽しいことだけではなく、苦しいことも、失敗も、涙した日もありました。

けれど今になって振り返ると、不思議なことに、それらすべてが今日の自分につながっています。

「あの出来事があったからこそ」
「あの人に出会ったからこそ」
「あの苦労を経験したからこそ」

全てがお陰様と思えることが、年齢とともに増えてきました。

若い時には「努力して頑張って進む人生」があり、
年を重ねれば「感謝しながら歩く人生」があり、
さらにその先には、「お任せします」と天に委ねながら歩く人生がある。

人生には、その年齢にならなければ見えない景色があるのでしょう。

私もこれからは、時計の針をあまり急がせず、
今日という一日を「ありがたい」と受け取りながら歩いていきたいと思います。

時計の針は、止まることなく静かに進んでいきます。

けれど大切なのは、何時まで進んだかではなく、
その一刻一刻を、どんな心で歩んだかなのかもしれません。

さて、あなたは今、人生という時計のどのあたりを歩いていますか。


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